第2章

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 誰も助けてくれなかった。たったひとりであのモンスターと向き合わなければいけないと思っていた。 「だけど、つぐみねーちゃんだけは違ったんだ。覚えてる?」  いきなりの公開プロポーズに真っ赤になったつぐみに、引きずられるようにして連れてこられた、徒歩十五分のハンバーガー屋さんで向き合う。  卒業祝いだと言われたので、遠慮なくダブルチーズバーガーにポテトとコーラーのLセットを頼んでしまった。つぐみはチーズバーガーとコーラーをもそもそ口に運んでいる。 「……覚えてない」 「嘘だ。おれは絶対に忘れないよ。つぐみねーちゃん、ヒーローみたいにかっこよかったもん」  今でも覚えている。  母親が死んで半年くらいたった頃。いつもは父が酒を飲んでいるときは、2階でじっとしているのに、夜中にどうしてもトイレに行きたくなって、こっそり降りて行ったとき、父親とかちあってしまったのだ。 『なんだその眼は! おれがそんなに怖いのかっ! しゃんとしろ! 男だろ!!!』  腸に響くような声で怒鳴られ、それだけで足がすくんだ。怯えて上目遣いになると、余計に父は怒った。 『どいつもこいつもおれをいらつかせる! おれをなめとるのかっ!』  酒臭い息。充血して血走った瞳。容赦なく手がふりあげられる。頬を何度も殴られ、うずくまると次は尻をけりあげられた。痛いし怖い。父の暴力は発作的で、いつ終わるかもわからない。彼の気分次第でいたぶられる。いったん始まったら耐えるしかなかった。薄目に、足をふりあげる父が見えた。踏みつけられる! 痛みと衝撃を覚悟し、身を固くした。
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