不器用な君

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俺の幼馴染はものすごく可愛い。 素直じゃないくせにすぐ顔に出て、友達思いで優しくて。 俺はそんなあいつが大好きで。 だから今日、あいつが誰にチョコを渡すかがどうしようもなく気になる。 俺じゃない誰かに渡すあいつを思い浮かべて、誰かもわからない相手にどうしようもなく嫉妬する。 それなのに、だ。インフルエンザにかかる俺はおそらく今世界で1番馬鹿なんじゃないかと思う。 太陽の傾きが早くなる冬、空は既にオレンジに染まっている。 「今頃あいつ、渡してんのかな…」 渡してるところなんか見たくない。そう思うと今日休んでよかったと思う。 俺がモヤモヤと考えていると、来客を知らせる音が部屋に響いた。 宅配便だろうか、と頭の隅で考えつつ重い身体を起こし玄関に向かう。 扉を開けるとそこには、俺のさっきまでの悩みの種がいた。 「なんだ、お前か」 と口から出た言葉。まさかこいつが来るなんて思ってもいなかった。 「…なに風邪ひいてんのよ。」 そう呟くこいつの表情は俯いているのでわからない。 「別に。それよりチョコ配りに行かなくていいのかよ。」 「…今年は本命だけだからいいの。」 「じゃあ早く渡しに行った方がいいんじゃねーの」 思ってもないことばかり口から出る。自分で言っておきながら胸が苦しくなる。 「…バーカ!!!」 そう言って投げた何かが腹に当たって落ちる。拾い上げるとそれは『ほかほかレモン』とかかれたのど飴だった。 「早く風邪治してよね。」 そう言って彼女は振り返り自分の家に向かって歩いた。 こういうところが可愛いだよな、と考える俺は相当あいつに惚れ込んでいるらしい。 自分に呆れていると、5mくらい離れたところで突然振り返った。 「あんたの分のチョコ、風邪治ったら渡すから!!」 そう言って真っ直ぐ伸びている道を走って帰るあいつの頬は少しだけ赤かった。 「…ほんと、そういうとこ…」 今の俺の顔はおそらくめちゃめちゃキモイんだと思う。 冷えた手を熱くなった顔にあてて冷やそうとしたところ、手に持っている飴を思い出した。 俺は封を開けて1つ取り出し口に放り込んだ。 今年のバレンタインは、ちょっと酸っぱくて、少しだけ甘かった。
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