2201/7/21/16:52 楠木修治

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研究員として働けるくらいだから優秀なのに違いはないのだろうが、そういった人間は往往にして能力の偏っている者が多い。白石も例に漏れずその部類である。とはいえ対する私も小説家なのだから大きなことは言えない。一般職とは言い難い小説家もまた、昔から偏屈な人間が多いことを知らないわけではない。 「もう二十年経つんだよな」 夜も更けた外の暗い雨を眺めて、氷アイスの角を齧りながら白石は唐突に切り出した。ほら、夕方修治が今は窮屈だなんて言ってたからさ、と後付けで説明される。 「確かそのくらい経つんだ、センターが出来てから。俺なんかはあれこそ合理主義社会の象徴じゃないかと思うよ」 側から見るとあそこはだいぶ窮屈そうだと続ける白石の言葉に曖昧に相槌を打ちながら、私は教育機構の再編成案が出た当時の騒ぎを思い出す。メディアは過熱報道により国民を煽りたて、教育専門家やら父母の会やらによるデモが盛んに行われていた。当時の教育省代表者の強い提唱が印象的だった。名前は何と言ったのだったか。 「意外と続いてるんだな。最初から無理があるからすぐに廃止になるかと思ってた」 「無理は、あるよなあ。確かに」 意外にも白石は肯定した。 「でもあれだけ騒いで一大プロジェクトを立ち上げたんだしな。関わってるのは人生を預けられた人間だし、実質は止めたくっても止められないんじゃないか」 泥沼だと白石は苦笑した。 センター──正式名称就学期未成年育成センター制度──は考えてみれば奇妙なシステムである。
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