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日常では殆んど他人と接する機会はない。接したとしても極めて事務的なものだ。大抵の事は自宅で出来るし、出掛ける時はモビリティで移動する。誰かに会おうとする時は意図的にそうしようと思わなければ会えない。子どもなんていえば尚更だ。スクリーンのコンテンツに映る子どもを見て、彼らを知っている気になっている。
「そういえば」
白石は突如思い出したようにこちらに顔を向けた。
「お前、昔そういう小説書かなかった? 」
「書かないよ」
「書いたよ。イメージとしては今のセンター制度と似てると思ったんだけどな」
「覚えてない」
そう言った瞬間、彼の言う“昔書いた小説”が何を指すのか思い当たったのだが、敢えて撤回しないことにした。白石は惜しそうな顔をしている。
「俺、結構あの話好きだったんだ」
「好きなのはバイオロジーが出てくるからだろ。現実と小説は一緒にしたら駄目だよ」
なんだやっぱり覚えてるんだと白石はぼやいた。
「褒めてるんだって。あれは中々良かったよ。切り込み方も鋭くて」
私は──。
あの小説は失敗作だと思っている。すぐに思い出せなかったのも、意図的に忘れようとしていたからなのかも知れない。それなのに白石の不用意な言葉で私は再びあの小説の内容を隅から隅まで思い出してしまう羽目になった。少し彼を恨んだ。
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