2201/7/21/23:49 ケルスティン

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2201/7/21/23:49 ケルスティン

渾身の力を込めて、身体中の気体すべてを吐き出してしまう。 それから、ゆっくり、吸い戻す。 これで気持ちが切り替わる。活動の始めにはそのように深呼吸することに決めている。 「分かってるだろうけど」 ロイは声を潜めて、眉根の寄せた顔を近づけた。 「周囲確認は常に怠らないこと。慣れから来る気の緩みが一番命取りになるから」 じゃ行ってこい、と背中をぽんと叩かれたあたしは軽く頷いて駆け出した。 新しい空気を吸い終えると、静かに梯子を登り始める。仕事の時は正規の出入り口ではなくて、この小さな非常口から出なければならない。出口が近づくにつれ音で雨が降っているのが分かった。 ──真 っ 暗。 外はざあざあと雨の音が聞こえるのみで何も見えない。たちまちあたしは全身ずぶ濡れになる。でも、雨の日は却って都合が良い。少ない光量と大きな雨音で人目につきにくいからだ。 周りが見えなくたって問題ない。目的地までの道のりは嫌という程通い慣れている。あたしは殆ど猫のようになって素早く、かつ静かに移動することができるのだから。 夜の街の様子は昼間とは全く異なっている。
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