2201/7/21/23:49 ケルスティン

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街はあたしに対していつだって余所余所しくはあるのだけれど、夜はそこに怖さも加わる。規格住宅各々に付いている同じ形の窓から漏れる光はあたしには拒絶に映る。この街は、この光は、お前のためのものじゃない、お前は入って来てはいけない──と無言で言っているような圧力を肌で感じるのだ。実際街に意思なんて有りはしないのだけれど。 光は、走っていると黄色い線みたいに見える。長く尾を引いて、すん、すん、と目の端から消えていく。走るのは急いでいるからではなくて、その方が安全性が高まるからだ。足の裏が水溜りを踏む小さなぱしゃぱしゃという音が心地良い。その音を聞きながら、蜘蛛の巣みたいに複雑に繋がっている道を右へ左へと進んで行く。今まで何年もそうしてきたから慣れたものだ。これからだって、きっとこの仕事を続けていくのだと思う。 捕まるまで多分──ずっと。 1キロほど先に家具会社の大きな倉庫がある。そこが目的地だ。最後の角を曲がると、黒い大きな影みたいな屋根が見えてきた。 ここの家具会社の売りは、高級木材再現のクオリティの高さなのだそうだ。スギだかヒノキだか知らないけれど、質感や香りまで天然の木にそっくりな『癒しの森』シリーズは本物志向のお金持ちに人気なのらしい。尤も、そっくりなのは表面だけで、中身は天然木なんて欠片も入っていないネオウッド素材なのだけれど。なにが本物志向だとあたしは思う。
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