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あたしは別にここで働いているわけではない。家具に木目が入っていようと内側がネオウッドだろうとそんなことはどうでもいい。仕事相手にとってこの倉庫が都合良い、それだけの話だ。そしてその人はどうも悪い人らしい。あたしの仕事に関わる人は、みんな悪い人だ。
あたしは、悪い仕事をしている。
十二歳にもなるのだからそれぐらいのことは気づいている。
走り始めて十分程で倉庫に到着した。
人影も明かりもない。雨のせいか、いつもより不気味に見える。素早く裏口へ廻る。ポケットから薄くて頼りない小さなカーボン素材を取り出した。仕事用に造られた偽造カード。
翳すと赤いセンサが光り、
──ドアが開いた。
*
初めて仕事をした日のことは今でもよく覚えている。
空は紫。
月は橙。
月のかたちは半月で、感じる風は生温かった。
あたしはロイの後に続いて仕事用の梯子を登り、外に出た。
ロイはあたしが梯子を登りきるのを手伝ってから、眉間に皺寄せた顔で、右手の人差し指を自分の唇に翳した。
静かに、というのと分かってるな、これは遊びじゃないぞ、の意味を込めて。分かっていた。仕事を始めたのは、あたしの意志だ。
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