2201/7/21/23:49 ケルスティン

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まだお前はそんなことしなくて良い、出来ることなら一生しなくていいと反対するロイや大人たちの意見を押し切って、半ば強引にどうしてもやるんだと言い張ったのは九歳のときだ。あたしが頑固なので、そのとき周りはせめて十歳になってからと猫撫で声で諭したのだった。話を先延ばしにして有耶無耶にするのが彼らの目論見だったらしいけれど、十歳になってもあたしの決心は変わらなかった。 けれどもその日、あたしはやっぱり楽しかった。それまでは夜中に外に出ることは許されていなかったし、周りの景色が昼間とは全然違うのが珍しかったから。大人の仲間入りが出来たと思った。危険な仕事だと教えられてはいたものの、そういう実感がまだなかったからというのもあると思う。 ロイは訳が分からなくなる程枝分かれの多い道を少しも迷わずに素早く走り抜けていく。見失わないようにとあたしも必死になってその後を追いかけた。 仕事の時は走れ、走る時は裸足になれ、というのはロイの教えだ。走ればそれだけ街に留まる時間が短くて済む、つまり一般住民に目撃される危険を少しでも減らす事が出来る。そして裸足になれば靴音をたてずにより静かに走る事が出来るというわけだ。 その日感じた夏の夜風の心地好さ。ロイの背中。倉庫内の匂い。特有の緊張感。カードで開くドア──。 とにかく全部が新鮮で、その日仕事を終えた後も興奮して眠れなかった。 倉庫内は薄暗く、かろうじて小さな明かりが灯っている。奇妙な木目調の家具たちはいつものようにひっそりと整列している。テーブル、ベッド、棚──梱包されているものもあればされていないものもある。
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