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所狭しと、ひっそりと、冷たく。
それはこの明かりのもとで見ると妙に不気味で、今にも動き出しそうな雰囲気を醸していた。
「なんだびしょ濡れだな」
目が慣れてきた頃、ぼんやりとした灯に浮かび上がるように立つ仕事相手が開口一番そう言った。
「雨だったから」
私は顔の滴を雑に拭う。仕事相手の気味悪さは所狭しとそこらに置いてある家具とそう変わりなかった。
面長の輪郭。濃い眉。ずんぐりとした背の低いいつもの男。
初めて仕事をした日にここに立っていたのもこの人だったろうか。ここはいつも暗いし、覚えていない。年齢も分からない。大人の年齢は、よく分からない。
「情報、滲んで読めないんじゃ話にならないぞ」
男は早口で急かした。彼はいつも落ち着きがない。気持ちは分からないでもない。違法取引だ。こんなところを誰かに目撃されてしまえば只では済まされない。
「あのさおじさん」
もう少しさあ──私はわざと間延びした声を出した。
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