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「もう少し地下の人間のこと、信頼すれば? これだって信用ビジネスなんだよ」
たぶん、彼の目に私は生意気な子供に映る。それでいい。
「そっちが先に渡してよ。情報は無事」
この仕事には押しの強さも大切だとロイに言われている。隙を見せると甘く見られてしまうから。
男の言う“情報”は道中で多少のトラブルがあっても対応できるように偽造カードの隙間に挟み込んである。誰かに見つかっても、悪天候でもこれならひとまず平気だ。彼は舌打ちをひとつして苛ついた様子でポケットを探った。
一通りのやりとりを終え、あたしは元来た道を注意深く窺いながら素早く走った。
あたしがあの仕事相手に売っているのは何か──ということはなるべく考えないようにしている。
それによって人がどう動き、どんなやりとりがなされ、どんな結果になるか──などということはなおさら頭から払拭する。
実際、あたしは自分がなんのやりとりに関わっているのか本当に知らない。
あたしはただお使いをしているだけ。
言われたことを言われたようにやっているだけ。
雨は、弱まるどころか更に激しさを増しているようだった。この様子だと朝まで降り続けることだろう。
帰ったら身体を拭いて服を乾かして──大粒の雨に当たりながら、敢えてそんなことを頭に満たして走った。
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