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情報を知るのはいつもスクリーンから。知りたいことがあれば大抵オフィシャルカードのスクリーンモードから検索する。センターの職員はレクチャーで扱う内容や生活上のルールしか教えてくれないし、わたしの方もなんだか訊けない。空気の澄み具合と空の色の関係ならば、DIが答えを教えてくれる。けれど、もっと言葉にするのさえ難しい疑問──例えば、大人が雑草と鉢植えの植物を区別するのはなぜなのか──というような疑問の答えはDIにもない。
わたしの気持ちや、ふと引っ掛かる事や、そういうことは何に、誰に訊けば良いんだろう。
親、だろうか。
わたしは両親を知らない。センターにいる大抵の子がそうであるように、名付けとIコードとオフシャルナンバーの発行手続き、新生児スクリーニングを済ませて健常児であることが証明されたのち、出生十四日後に国に寄付されたらしい。
カリキュラム4に進級して十歳になったとき、提供者の情報を知りたいかどうかのアンケートが配信されて、わたしはよく考えもせず「はい」の項目を選択した。そうしたら後で個別に面談室に呼び出されて、保護職員が生みの親のデータを見せてくれたことがある。でも結局ほとんどの情報は忘れてしまった。どのみちプライヴァシーの問題だとかで大したことは載せられていなかったのだけれど。
──夏目。
その二文字だけ、明確に覚えている。
──この漢字は何ですか。
保護職員に尋ねたら、ミョージだね、と素っ気なく言われた。オフシャルナンバーが普及する前に使われていた一種の記号のようなものらしい。名前がふたつあるようで、なんだか外国みたいだと思った。ミドルネームとか、そういう感じの。
──なんて読むんですか。
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