13人が本棚に入れています
本棚に追加
次の瞬間彼女はとても面白そうに笑いだした。まぶたの上で切り揃えた前髪がさらさら揺れて額が覗く。笑う要素なんかないのにどうして笑うんだろうと、わたしは意味が分からずただそれを見ていた。
ひとしきり笑った彼女は「笑ってごめん」と言いながらまだ笑っている。
「別に馬鹿にしてるんじゃないよ。じゃなくて、なんか、意外な答えだったからさあ」
センターって結構自由なんだ、と少女は目尻を拭う。
「一人で散歩させてもらえるとか知らなかった。もっとキュークツなとこかと思ってて」
「窮屈だよ」
少なくともわたしはそう感じる。
「え? だって」
「無断で、出てきたの。本当は散歩なんか許可されてない。この後帰ったら、きっとまた怒られる」
「へえ」
少女は目を丸くした。
「ルール破って出て来てんの? で、怒られるって分かっててまたそこに帰るわけ」
「帰る場所、そこしかないから」
窮屈だけれど、あそこを出てもわたしはどうやって生きてゆくか分からない。あそこを出て他で暮らしたいわけじゃない。
嫌なことを思い出してしまった。せめて散歩中はそんなこと考えずにいたいのに。日菜子さんの、あの冷ややかでうんざりとした表情と目をまた見なければならないこの後の現実を思ってお腹が痛く苦く感じた。わたしが勝手に外へ出るから悪いのだけれど。
最初のコメントを投稿しよう!