2201/7/23/10:31 ケルスティン

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太陽から遮られた深い昏い空間。上から下まで覆っているのは厚くてひんやりとしたグレイのコンクリート。でこぼこでひび割れて、ときおり欠片がぼろりと落ちる。 この場所は街から隔離されている。物理的にも、気持ち的にも。 別にここが嫌いなわけではない。あたしは罰を受けて閉じ込められているわけじゃないし。生まれた時からここにいるのだし。でも、どうしてだろう。ほんのたまに後ろめたさを感じたり、するのだ。 昔。 ここは交通機関(トランスポート)として使われていたという。地面の下に乗り物が走っているなんてちょっと想像出来ないけれど、昔の人はそれを当たり前に思っていたんだろう。今は地下空間なんてモビリティのパーキングにしか使われていない。 チカテツ、とかいうその乗り物は中央にあるあの一番窪んでいるところを通って東京中を走っていたのだそうだ。しかも顔も名前も知らない人たちが雑に乗り合わせるスタイルだったらしい。外国みたいに適当でちょっと面白い。 長いこと使われていない、すっかり寂れて遺跡みたいになったその場所に、先代の人たちが住み着き始めたのは四十年くらい前のこと──いつかそんな風にお母さんが教えてくれた。     
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