2201/7/21/15:23 棗

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生まれた時からあるのにおかしな話だけれど、わたしはまだオフィシャルカードに慣れない。このカーボン製の薄くて頼りない小さな一片に、わたしの全てが収められているというのはなんだか味気ない。喋るのが得意でない生身のわたしよりも、このカードの方がよっぽどわたしに就いての情報を提示してくれる。 このぺらぺらのカードこそ本物の『棗』──わたしなのだ。 わたしの主体はカードの方なのだ。 室内はいつものように整然と整えられていた。次のレクチャーまでまだ二十分以上ある。それまで特にやる事もない。 ベッドに腰掛けて何気なく窓から外を見下ろすと、街もセンターも呆気ないほど小さくこまごまとして見えた。わたしが一時間ほど前に蹲み込んで葉擦れの音を聴いていたあの空き土地は、建造物に阻まれて一ミリも見えなかった。わたしがあそこにいたのはずっと大昔か、嘘だったのかも知れない。ここに帰ってくると毎回そんな気持ちになる。 そして、あそこで聞いたような気がする呼びかけも、きっと嘘。 だってあれは、声とも呼べないようなささやかなものだった。わたしはただあの時、目の前の植物の葉脈が作り出す複雑な模様に見入っていて、そうしたらなんだか不意に誰かが呼んだ感覚がしただけなのだ。声というより、あれはもっと直感的なものだ。強いて言うならテレパシーとでも呼べるようなもの。 ──テレパシー。 可笑しくなって思わず笑った。そんな子供騙しで説得力のない言葉はとうの昔に死語になっている。
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