三年前のある日

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 千代田がこのような過ちを犯したのには、それなりに理由がある。  ひとつには、彼がそのイメージに反し、無類の甘党だということである。新作の菓子には目がない。  もうひとつには、この会場に向かう途中、薔薇の形をした、美しいチョコレート菓子を見かけたのだった。そして、内心、いいなと思っていた。  今日の、おべっかばかりの退屈なパーティーが終わったら、絶対買おうと、心に決めていた。俗に言う、自分へのご褒美、というやつだ。  そんな背景があって、彼は花の蝋細工を口にしてしまったのだった。  蝋特有の、石油のような匂いと、ボソボソとした触感が口のなかに充満した。味覚が、「吐き出せ」と命じているのを感じた。  しかし、そこは世紀の敏腕社長である。部下の前で、自分の失態を晒したくない、という変なプライドがあった。  また、ここで吐き出せば、この花はチョコレートではなく、蝋細工だと認めたことになる。それを見た部下に、陰で馬鹿にされたらという心配で、頭のなかがいっぱいだった。千代田は意外と、他人の目を気にするタイプだった。
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