三年前のある日

4/8
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 ふと、部下のほうを見やれば、一様に笑顔を浮かべている。  それは困惑の笑顔であったのだが、千代田はこの状況をどう切り抜けるかで混乱しており、その微妙な表情に気が付くことができなかった。  そして決心する。  (これはチョコレートだと、言い張るしかない)  千代田は、覚悟を決めて咀嚼を続けると、根性で吐き気を堪え、味気ない異物を飲み込んだ。  そして、少し涙目になりながら、それでも毅然と言い放った。  「ほう、花のチョコレート菓子とは面白い。君のところのかね」  と、食品部門の幹部に話を振った。  「あ、っふぇ!?」  突然、話を振られた幹部は、変な声が出た。曖昧な返事を返し、何かもごもごと言いながら、愛想笑いでごまかした。  だが、千代田の作戦は、少なからず部下たちに動揺を与えた。  造花なら食べられるわけがないのに、彼ははっきりとチョコレートと言ったのだ。  (もしかして、チョコだったのか?)  (チョコだ)  (何言ってんだ、この爺さん)  (え、これ、俺も食べたほうがいいの?)  様々な思惑が渦巻く。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!