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たった一個でいいのに──幼馴染の横顔を見ながら、ため息が出そうになるのを懸命にこらえた。
***
はたして、2月14日。
部活も終わり部室を出ると、ベンチに座ってスマホを見ていた仁美が顔を上げた。
いつもの事だ。文化部に入っている仁美は、俺の部活終わりを待っていてくれる。
「帰ろ!」
明るい笑顔が眩しい。
判る、俺、会うたびにお前が好きになっている。
同じマンションに住んで同じ学校に通ったんだから、会うたびって毎日って事だぜ? バカだよな。
好きが降り積もって仕方ないけど、それを伝える勇気はない。
だって言ってしまったら、今の関係は確実に終わるんだ。
お前の答えがなんであっても、だ。
今を壊す勇気は、どうしても出なかった。
きっと俺は一生、この気持ちに蓋をし続けるだろう。
そばにいられればいいと、思っている。だってそうすれば、お前と俺はずっと幼馴染だ。
電車に乗り最寄駅まで行き、駅から徒歩10分のマンションへ。
エレベーターに乗り込み、6階と8階を押す、
エレベーターが動き出すと。
「はい、これ」
仁美がポケットから小さな箱を出した。
5センチ四方、厚さは数ミリ程度の小さな箱は綺麗にラッピングされ、リボンもかけてある。
え──!?
「これって……っ」
思わず声が出た。
「チョコかと思う?」
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