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でも開けなかったと言ったら、あいつは怒るだろうか。
いや、がっかりするかも──あいつのそんな顔は見たくない。
俺は意を決して包装紙を開き、箱を開けた。
中身は名刺大の紙だった。白地に金箔で唐草模様が縁取られた中に、たったふたつの文字が大きく書かれていた。
俺はそのふた文字を、何度も何度も確認し、読み直す。
『好き』
他愛もないのに、深くて嬉しい言葉には、語尾にハートマークも付いていた。
あいつ、馬鹿なの?
朝からずっとこれを持って歩いていたって言うのか。
一緒に登校する時も平然として。
学校で会っても変わった様子もなく。
下校時だって何も匂わせていなかった。
そして、本当の別れ際になって、チョコでもない直球の言葉が書かれたカードをプレゼントするって──!
俺は何度も深呼吸してから、スマホを手にした。
アプリから発信すると、コール音はすぐに途切れた。
『はい』
愛しい人の声は震えていた、俺が電話をした理由などすぐに想像がつくからだろう。
「仁美、見た、読んだよ」
『──うん』
飲み込むような返事だった、死刑台に上がった気分だろうか。
俺も伝える勇気が出なかった言葉だ、きっと仁美もまさしく清水の舞台から飛び降り気持ちでの告白だったんだろう。
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