17人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
アズは必死に笑おうとした。でも涙も止まらなくて泣き笑いになる。
さっきと同じ手が伸びてきてアズの頭をよしよしと撫でた。
この手は、アズが何よりも大好きな手だ。目の前に居るみんなは、アズの誰よりも大切であり続ける友人たち。
辛いことがあるといつだって思い出してきた心の支え。
自分を撫でた大好きな手の持ち主は、アズのいつまでも特別な人。
慌ててアズに駆け寄って彼女を抱きしめたのは、エリカ。それを微笑ましく見守っているのはユウヤ。呆れ顔に嬉しさが隠しきれていないのがカズ。そうして、アズの頭を撫でたのは初恋の男の子、エータ。
ミナミがむっと膨れた。少々お怒りである。折角の化粧が見せびらかす前に落ちかけてしまったからだ。
しかし――まぁ、仕方ないか。たぶん仕方ないことなのだ。
よくよく考えると、ミナミは自分がエータやアズと仲良くなる前のことは知らない。二人が両想いだったことは知っている。けれども、まさかそれが現在進行形だなんて思いもしなかった。
エータといえば、アズのことになると見境がなくなる。アズと再会したことは教えたけれど、迷惑だから絶対に会わせるものかと思っていた。
カズに至っては、エータ以上の暴走振りを発揮するから話してすらいなかった。
この二人がいつまでも何らかの形でアズのことを忘れずにいたことは知っていたけれど、昔と少し変わったアズを会わせたらがっかりするかもしれない。そもそもアズが昔のままの気持ちでいるなんて知らない。だから会わせたくなかった。再会したアズは一言も彼らの話をミナミに振ったことがない。
そうして今、ミナミは漸く彼らに関する認識を少し改めて、反省した。
仕方ない、よな。多少の面倒は被ったとしても――。
アズはすっかり大人びた顔付きになった友人たちを見渡した。そもそも男の子たちは声も体格もすっかり変わってしまっていて、まるで別人のようにさえ感じるが雰囲気がまるで昔のままで安堵が広がった。
いい加減移動しようとミナミが促すと、さっさと自分から歩き出した。当たり前のようにエータはアズの隣を歩調を合わせて歩く。その逆サイドにすっと寄って来たカズはアズの頭を小突いた。アズの頭上ではそれを見咎めたエータとカズが馬鹿らしく睨み合っている。
前方で、「あいつらは相変わらず馬鹿だね」などと小声で呆れられていることなど全く聞こえていない。
聞こえたアズだけがこっそり微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!