第2話

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 至福の時間はあっけなく延長された。エータはアズと最寄り駅が一緒だった。ミナミに探りを入れていたエータは知っていた。  アズがあんまりにも驚いていて、そして嬉しそうな顔をしたので、エータはとても気分が良かった。が、駅前でアズはあっさりと「じゃあね」と別れようとしたので彼は慌てた。  逆方向なのだから仕方ないけれど、どうにか平静を取り繕って「送るよ」とさも当たり前のように手を差し出すと、アズは微笑んでその手を取った。  それからエータは心の中でこっそりアズに突っ込みを入れた。    あんな淋しそうな顔であんなあっさりって。アズらしいけれど流石にちょっと淋しい。  そんな彼の内心はさて置き、アズは少しドキドキしていた。  昔もこんなことが何度もあった。ドキドキするのは一瞬だけであっという間にそれは安らぎに変わる。  でも今日は、流石に久々すぎてドキドキが長引いている。  誰にも内緒で落ち込んでいても、絶対にエータにはバレる。アズが秘密の場所でこっそり泣いていると、必ず彼が見つけてしまう。不思議だった。  エータはアズのことならなんでもわかるのではなくて、常に必死に彼女を見つめていたから気づくことが出来て、見つけることが出来ただけだ。  夕暮れ時――それが子供の頃は一日の終わりだった。あの頃に似ているなとアズは思った。大人になった今は、一日の終わりが夕暮れ時を通り越して暗闇になる。違うのはそれだけ。  夕暮れ時に元気をくれたエータが「帰ろう」と差し出す手を思い出して、アズは懐かしさを覚えた。  少しふたりで並んで歩くと、辺りの街灯が少しだけ減った。  ふとエータは思い出して、「寄り道しよっか」と言うと、小さな路地を曲がった。
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