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「最近……村上と仲良いんだね」
村上というのはミナミの苗字だ。
「あのね、大山君」
とそこまで言ってアズは怯んだ。彼の目付きが怖かった。その怖い目に自分は一体どういう風に映っているのだろう。怖い。
そう思うようになったのはいつからだろうか?
最初は何ともなかったのだ。いつも通りだったのだ。少なくともアズが彼にごめんなさいと最初に言った頃は。
いつからだろう? 彼の前でアズはどうしても笑顔が作れなくなった。
一度息を吸ってアズは仕切りなおした。
「ミナミはね、昔からのお友達だよ」
大山にとっては初耳だった。少しだけ彼の表情が緩み、安心したアズは先を続けた。
「小学校の時の仲良し組みなの。本当にそれだけだよ」
途端に反論に出た大山にアズはびっくりした。
「今まであいつとアズちゃんがふたりでしゃべってるところ、見たことない」
ついこの間まで、アズにとって大山がクラスの中で一番良く話す男友達だった。それを基準に考えれば、確かに彼の言う通りではあるが、そもそもアズは今もそれほど多くミナミと話をしていない。
「もともと、そんなに話さないよ? 用事があれば別だけれど……」
上手くはぐらかしたいのに、上手にしようとすればするほど上手く行かない。折角昨日忘れた眉間の皺が、早くも復活しそうな気配があった。じーと自分を見つめる大山にたじろぎながら、アズは必死に頭を巡らせる。しかし言葉は何一つ思い付けなくて、息苦しさだけを覚えた。
アズの表情が歪みかけて、大山は悲しそうに目を泳がせた。
「俺のせい?」
そう尋ねる彼は途端に潮らしい口調に変わる。
まただ、とアズは思った。
大山はずるい。そうすればアズが拒絶出来ないことを知っている。
彼の思惑通り、アズはやっぱりなにも言えないままで、暫く嫌な沈黙が続いた。
彼はずるい。泣きそうなのはアズの方なのに、泣きそうな顔で自分に縋ろうとする。ここで泣いたらだめだとアズは必死に耐えた。
本当は泣いてしまいたい。自分が泣いたら、彼はどうするのだろうか。よくわからなくて、ただ怖くて、だから泣いたらいけないような気がした。
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