第3話

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「最近……村上と仲良いんだね」  村上というのはミナミの苗字だ。 「あのね、大山君」  とそこまで言ってアズは怯んだ。彼の目付きが怖かった。その怖い目に自分は一体どういう風に映っているのだろう。怖い。  そう思うようになったのはいつからだろうか?  最初は何ともなかったのだ。いつも通りだったのだ。少なくともアズが彼にごめんなさいと最初に言った頃は。  いつからだろう? 彼の前でアズはどうしても笑顔が作れなくなった。  一度息を吸ってアズは仕切りなおした。 「ミナミはね、昔からのお友達だよ」  大山にとっては初耳だった。少しだけ彼の表情が緩み、安心したアズは先を続けた。 「小学校の時の仲良し組みなの。本当にそれだけだよ」  途端に反論に出た大山にアズはびっくりした。 「今まであいつとアズちゃんがふたりでしゃべってるところ、見たことない」  ついこの間まで、アズにとって大山がクラスの中で一番良く話す男友達だった。それを基準に考えれば、確かに彼の言う通りではあるが、そもそもアズは今もそれほど多くミナミと話をしていない。 「もともと、そんなに話さないよ? 用事があれば別だけれど……」  上手くはぐらかしたいのに、上手にしようとすればするほど上手く行かない。折角昨日忘れた眉間の皺が、早くも復活しそうな気配があった。じーと自分を見つめる大山にたじろぎながら、アズは必死に頭を巡らせる。しかし言葉は何一つ思い付けなくて、息苦しさだけを覚えた。  アズの表情が歪みかけて、大山は悲しそうに目を泳がせた。 「俺のせい?」  そう尋ねる彼は途端に潮らしい口調に変わる。  まただ、とアズは思った。  大山はずるい。そうすればアズが拒絶出来ないことを知っている。  彼の思惑通り、アズはやっぱりなにも言えないままで、暫く嫌な沈黙が続いた。  彼はずるい。泣きそうなのはアズの方なのに、泣きそうな顔で自分に縋ろうとする。ここで泣いたらだめだとアズは必死に耐えた。  本当は泣いてしまいたい。自分が泣いたら、彼はどうするのだろうか。よくわからなくて、ただ怖くて、だから泣いたらいけないような気がした。
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