第3話

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 目の前で何度か大山に泣かれているアズは、取り合えず彼が泣く姿は見慣れた。きついことを言ったって、甘いことを言ったって、結局彼は泣くのだ。それよりも、彼に自分の泣き顔を見られる方が嫌なのだと気づいた。  ミナミ……早く戻ってきて……。  心の中でアズがミナミに助けてと懇願したと同時に、彼女のケータイ片手に教室に飛び込んできたのは、何故かミナミではなくエータだった。  助けは欲しかったけれど、どうしてエータがここに居るのかわからない。アズの頭の中はぐるぐると混乱した。  颯爽とアズのところまで駆けて行くと、エータはまず「大丈夫だよ」と頭を撫でてやった。大山はさっきミナミを睨みつけていたそれよりも、更に邪険な目付きでエータを睨みつけたが、エータはエータで全く負けていない。  向かいに居る気に食わない男に向かって凄みを利かせてから、ぐっとアズを抱き寄せた。表情とは裏腹に、明るく宣戦布告――。 「これは俺の。あんたに入り込む隙なんて微塵もないよ?」  大山は凄まじい形相で一度エータを睨みつけたが、そのまま走り去ってしまった。大山の有様を見て、ミナミは大慌てで教室に戻った。 「お前は! 逆撫でするようなこと言うなよ!」  途端にミナミの滅多に聞けない怒声が教室内に響いたが、エータは素知らぬ顔である。  そうしてアズは肝心なことを思い出した。  エータという人間は、普段なにを考えているのかわからないくらいに穏やかなのに、時々やたらと強気な言動を取る。そうしてアズは何度も彼に助けられてきたけれど……流石にミナミの視線が痛かった。
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