17人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
エスパー宜しくエータが現れたのは、全部ミナミの策略だった。が、まさか一発目からここまでやらかしてくれるとは彼も思っていなかった。
あまり昔と変わっていかない自分を棚に上げてミナミは思った。変わらないって恐ろしい、面倒くさいと。
全部ミナミによってエータに筒抜けだったことを聞かされたアズはほっとした。そしてそれから少し慌てた。
ふたりは口を揃えて「カズには言ってない」と言ったので、漸くアズは安心した。カズはエータよりも過激だ。言動がとにかく荒っぽい。きっとカズだったら先に手が出ていたかもしれない。
ミナミはうざったそうに「こいつはしつこい」とエータをちくちく差した。いくらぼやいても、ミナミにしてみたら言い足りない。
ミナミがエータをアズに会わせようとしないなら、自分から声をかけてしまえばいいのに、エータはそれをしなかった。ミナミが会わせたくない理由を持っているのだと、エータは考えて我慢していた。
「まったくさー、何度頼んでも会わせてくれないんだもんな」
「悪かったよ。だからさっきので許せって」
「遅いんだよ!」
エータはいまいち怒りが収まらない様子だ。
「いや、だって……」
濁した続きをアズにはわかってしまって、静かに目を伏せた。
ミナミの気遣いだ。ミナミは自分たちの関係を全て知っているわけではないのだ。そう考えると、会わせない方がいいと思っても仕方ないとアズも思う。
ミナミはたぶん眉間に皺を寄せているアズを見たことがない。楽しかった三年間で、アズはエータ以外の誰にもその表情を見せていなかった。みんなと居る時は、自然とそんな顔をする必要がなかった。
ありがとうと心の中で呟いてから、アズは相変わらず膨れたままのエータを捉えて噴出した。掻き消すようにミナミのわざとらしい大きな溜息がかぶさって、そのままアズは顔を引き攣らせた。
「お前は少し反省しろ!」
そろそろ今日室内に人が入り始めてきた。色々な意味で居心地の悪くなって来たエータは逃げるように去って行った。
「また後で」と言い残して。
最初のコメントを投稿しよう!