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二人の周りが一気に賑やかになった。
「今ね今ね! 背が高くてちょっと素敵な男の子が居たの~!」
賑やかにやって来たクラスメイトのミキとサキは、ミナミが下を指差したままに視線を動かし、そこにいたアズに驚いた。本気で居ることに気づいていなかった。
ミナミは面白そうにもう一度指を差して言った。
「これ。こいつの」
驚きと興味の混じった黄色い声が教室を賑わす。でも、いつのまに? 少し前からの時々鬱陶しい事態は、そういう相手が居たならもう解決していたに違いない。
後からひょこっと来たユリが昨日のことを思い出し「なるほど」と呟いた。
ユリはミキとサキに説明を強請られて、とりあえず昨日のことを話し、次いでミナミに振った。
話終わる頃には何人かの友人が増えていた。一様に感嘆を漏らし、全く聞こえていないアズを見下ろした。突っ伏したままで、更に今は頭まで抱えている。みんなはそんなアズが可愛い。こんなアズはなかなか見ることが出来ない。
言い過ぎたと再びミナミが反省していると、ユリが怖い目でミナミに向き直った。ミナミは思わず逃げ腰になりながら疑問を口にした。
「えっ?」
「で?」
「えぇ?!」
悲鳴を上げたミナミはどうしてこんな詰問を受けているのかいまいちわからなかった。
何故はっきり言わないの。怖いよ、ユリちゃん!
ミナミは元々それほど押しの強い方じゃない。そしてユリはとことん強い。密かに彼女のことを想っている彼は、絶対に彼女に勝てない。逃げられないミナミは縮み上がったが流石に文句を言った。
「なんで、矛先俺に向くの?! ねぇ!?」
誰かに助けを求めようにも、みんなが一様にミナミから目を逸らした。自分はまるで悪くないはずだ。なんなら功労者のはずだ。もしかしなくてもエータのせいでこの後面倒くさいことになるのはわかりきっていても、事態はじきに治るはずだ。エータの頑張り次第だが。
「ミナミが悪い」
「うん、ミナミが悪いね」
「ミナミのせいだな」
「ミナミだね」
と、以下もういくつか続いた。
口を揃えて全員が言うことは同じ言葉で、諦めてあっさりミナミは謝ったが、謝ってから思った。なんで?
ちょうどよい話題転換材料が転がってきた。ミナミはこつんとアズの頭を小突いた。
「ケータイ、鳴ってる。エータじゃないの?」
がばっと顔を上げたアズは首を傾げた。その場にいつのまにか居た友人達が妙な目で自分に注目している。
「な、なに?」
みんながなにも言わずに、順番にアズの頭を撫でていく。ただでさえ混乱しているアズは本当にわけがわからない。
「で? デートの約束?」
サキのその問いかけに、メールを打ちながらアズは思いっきりむせ返った。
「ちょ、な、なに?!」
図星と取ったユリと、それからミキが不敵な笑いを浮かべた。腕が鳴るわとばかりに自分の世界へ入りかけてるふたりに、ミナミは馬鹿らしそうに制止を入れた。
「無駄なエネルギー消費はやめときなよ」
「えー、どうして? 昨日は必要だったんでしょ?」
「あーもうね、全く無駄だった。あれはね、アズならなんでもいいんだよ」
アズはみんなの生温い笑顔に囲まれて、再び撃沈した。
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