第3話

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 ふたりはよくこの屋上で煙草を吸う。いくつもある学部棟の中で一番学校全体を見渡せるそこは、ふたりのお気に入りだった。  この棟は場所が悪いために講義にはあまり使われなく、穴場となっている。滅多に他人と出会うこともない。  この秘密の場所でふたりは色々な話をする。 「あたしね、大山の頼り甲斐のあるところが好きなんだ」  アズは「うん」と丁寧に相槌を打った。 「でもね、最近の彼は違うでしょ?」 「本当の大山君は、優しい。頼り甲斐があって……」 「うん。アズが今もそう思ってくれているだけで十分だよ。あーあ、あたしちょびっと疲れてきちゃった」 「ユキさんは優しいから」 「ふふっ、アズも優しいものね」 「あたし、優しくないよ。ミナミに怒られちゃった」 「ううん、アズは優しいよ。……ごめんね」 「どうしてユキさんが謝るの?」  ユキが謝るのは絶対におかしいとアズは思った。おかしいと思ったからおかしいと言った。しかしユキは微笑んだだけだった。 「よかったね。ホント、ミナミってばとろいんだから」 「あのね? 別にエータは彼氏じゃないよ?」 「えー? でも十分じゃない。俺のものとか言われちゃったんでしょう」  ユキの気持ちを知っているのはアズだけだ。しかも、知ったのはつい最近のこと。  アズはなにも知らずにユキに大山のことをずっと相談してきた。ユキの想いを知った時、アズは自己嫌悪に陥った。自分の鈍感さを嘆くアズにユキは言った。  気づくわけないよ。誰も気づいてない。相手がアズだから言ったんだよ。  その後、アズはひたすら彼の話題を避けた。けれどユキは自分から相談に乗ろとしたし、アズの知らないところで何度も大山を説得しようと試みている。  彼女曰く。これは利害が一致しているのだ。自分も今みたいな彼は嫌いだから。  この言葉を聞いた時、アズは無性に悲しくなった。報われない。どうして、気づいてくれないのだろう。 「ありがとう」  アズが伝えると、ユキはありがたく受け取った。 「ねぇ、アズはね、周りに気を遣い過ぎ。時々はわがままにならないと損しちゃうよ? アズはアズらしく思うように居たらいいんだよ。あたしは、そんなアズを見ていたいよ」  ユキの言葉は魔法のように、いつだってすっと心に沁みてくる。アズは少し泣きそうだった。そんなアズの頭を優しく撫でると、ユキは静かに階段を降りていった。
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