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アズはユリに顔を弄られながら、居心地の悪い思いをしていた。慣れない心地はくすぐったくて、息を止める必要もないのに止めてしまいそうになり、その度にユリが可笑しそうに指摘する。
疲れて来たアズが溜息を吐くとユリに窘められた。
「折角可愛くしてるんだから、そういうのは似合わないでしょ!」
「……ごめん。でも何だか息苦しい」
アズは全く化粧っけがない。自分を飾るのは苦手だとアズは言う。アズらしいなとユリもミナミも思うが、折角良いものを持っているのだから勿体無いとも思う。化粧うんぬんではなく、せめていつも笑顔で居ればいいのに……と思うが、今は無理なことを知っているからそれは言えない。
「で? まさかミナミとデート? なわけないか」
「そんなわけないでしょ」
「わあ、そんな間髪入れずに酷い」
アズがそう苦情を漏らすと、講義室内を覗きに来たミナミはふふんと得意そうに笑った。
「俺は、アズの好みじゃない自信がある」
自信満々にそう言うと、アズがくすくす笑ったのでミナミはほっとした。笑うとこんなに可愛い子なのに。この子から笑顔を奪おうとしている奴が本当に憎たらしい。こんなことがなければあいつに彼女を会わせようなんてきっと思わなかった。あいつに会えばきっとまたアズは笑う。でもそれは少しだけ火種になりかねないから、ミナミは嫌だった。
でもやっぱり、アズには笑っていて欲しい。
仕上げにユリは自分の首からショールを外してアズの首に巻きつけた。出来た! とご機嫌な声を上げると、ユリはアズを見つめながら自画自賛している。
考え事を止めて化粧を施されたアズに向き直ったミナミは思った。自分が興味無いからそんな目でアズを見たことなかったが、確かにこれは……。
お洒落大好きなユリの腕も確かながら、どっからどうみてもアズは綺麗に見えた。
「ね、ねえ? それで、どこに行くの?」
「いいから、いいから。来ればわかる」
と、ミナミのケータイがぶぶるっと震えた。カチカチとメールを返すミナミは迷惑そうに顔を顰めながらもどこか楽しそうだった。
「ユリちゃん、ありがとね」
にかっと八重歯を除かせてミナミはユリにお礼を言うと、再びアズを引きずって去って行った。
「んー、良くわかんないけれど明日が楽しみねー」
ふたりの後姿を眺めながらユリはひとり呟いた。
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