第1話

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 一年の浪人時代を終えて今年大学に入学したアズの浪人時代はバイトと予備校の往復で忙しかった。遊ぶ時間も無ければお金も無い。  一年間のぎりぎりの生活は思いの外良い結果となり、時間もお金も浪人時代よりは余裕が出来た。  高校三年、周りの期待を裏切ってぽろっと入試に失敗したアズはその後、両親と上手く行かなくなり半ば勘当同然で家を飛び出した。ところがその後、予定よりも少しレベルの高い大学に受かったことで喜んだ両親はあっさり勘当を解いた。  今は親の支援があるため金銭的には余裕があるが生活自体はあんまり変わっていない。  元々、華やいだものは好きでないアズは、余裕のある今でも化粧はしないし伸ばしっぱなしの髪を適当に束ねて、大抵Tシャツにジーパンという飾り気の無いさまだ。  大学生活はそれなりに充実していた。学科のクラスメイトたちは気を置く必要の無い仲間ばかりで、毎日わいわいと楽しくやっている。  アズは集団に居るとあまりしゃべる方ではないが、それでも自然と溶け込んでいた。  彼女は元々あまり人付き合いが特意ではない。こんな風に友達付き合いが楽しいと思えるのは久しぶりのことだった。  しかし、それもつい先日までの話だ。  人間関係に問題が生じた。  それまでの半年ちょっと、居心地の良い場所で、アズはだんだん自分らしく居られるようになっていた。  自分らしくないと気づいたのはある日、さり気無くミナミが視線を逸らした時だった。  あれ? とアズは思った。あたし、春よりは少し前向きになれたと思っていたけれど……あっという間に後退している?  些細なことのはずだった。些細なことと最初は思っていたのに、やたら気が削がれた。  淡白に状況判断している割に思いの外ストレスに感じる瞬間があって、気づけばやたらと周りの目を気にしている。  よくよく観察してみると、この小さなコミュニティの中で上手く行っていたはずの様々な人間関係が、微妙に歪み始めているようだった。  誰もがアズのせいではないと言ったけれど、それは逆効果でどんどん彼女は沈み込んでいった。
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