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「じゃあ、ちょっと付き合ってよ」
ミナミはそう言うなり、アズをまずユリのところへ連れて行って、化粧が終わるとそのまま駅へ直行した。
電車に揺られながらもう一度聞いてみる。
「で、どこに行くの?」
聞いたところでやっぱり明確な答えは返ってこない。
「行けばわかるよ」
それの繰り返しである。
電車に揺られている間、周りの視線が時々アズを捉えるのをミナミは見逃さなかった。
大学に入って再会したアズは、昔の彼女をよく知るミナミから見て、根本の性質は昔とあまり変わっていないようで、見た目が与える雰囲気は随分変わっていた。地味そのものだ。
あまり手を掛けない格好は、お洒落が好きなミナミから見ても地味そのものではあるが、センスが光っていて悪くはない。
ただ、本人が地味そのものなのだ。
独りで居る時などは大抵縮こまりたいとばかりに猫背気味になる。私、暗い子ですよと言って歩いているようなものだ。
容姿そのものはすっぴんでも目を引くくらい整っているのに、地味を好むアズはそれが嫌らしい。というより、過去嫌な思いを散々したから目立つのは嫌いだという。
そんな彼女は今の自分の状況に関していくら首を捻っても足りないくらい不思議らしい。
恋愛沙汰とかそういった華やかな話ってね、自分から良い雰囲気が出ている時にやってくるものじゃない? あたし、今の自分がそんな風に良い自分で居られている自身がないの。毎日、みんなと楽しいよ。でも、まだ完全に自分らしくは居られてない。ねぇ、そういうのって前面に出るものでしょう? ミナミは気づいているでしょう? あたしはまだあたしらしく居られないの。
少し前に、アズはミナミにそんなことを言った。今のアズはミナミから見て確実に物足りない。アズらしいというのが昔の彼女だとすれば、確実にまだアズらしくない。
再会した当初、ミナミはそれこそ随分戸惑ったものだからはっきりと言える。
じゃあ、どうしたらアズは自分らしさを取り戻せるのだろう。
そんな疑問を抱いても、まるで自分ではどうしようも無いことだったから考えるには至らなかったが……今はわかる気がした。
たぶん、アズはこれから自分らしさを取り戻す。間違いなく。
でもそれは――アズのことを思えば良いことだけれど、ミナミにとっては少し面倒くさいことでもあった。
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