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 そこで『若頭』を務める、あの新庄宗一という男。  空虚なような、冷たいような、一種精神的な欠落を感じさせる目をしている。どこか、何かが『欠落』している。  なぜか弘樹と宗一の間には、私の理解を超えた結び付きが出来つつある。その結び付きに基づいて、弘樹は新庄宗一に『まま』を貸し出そうとしているというのだろうか――……。   結局一日何をするでもなく、私は座敷で膝を抱えてやり過ごした。途中幸樹からラインが来たから、『解体、順調』とだけ返事を返す。それ以上のやり取りをすると泣いてしまいそうだった。壊れていく思い出に。遠く姑の手の中にいる、愛する私の可愛い息子に。  やがて日は傾き、現場には終業時刻を示す、5時がやってくる。  キッチンで作業をしていた職人達は、こちらになんの挨拶もなく三々五々に解散していく。ありがとうございました、と声をかけるべきかとも思ったが、存在を無視されている私がここで謝意を示すのもおかしいような気がして、黙ってやり過ごした。  サッシの外、源田工務店の面々も仕事を終えたらしい。法則性に則られた動きがふいに乱れる。乱れたと思った瞬間に、新庄宗一の手によってサッシが無遠慮に開けられる。空いたかと思えば、先日の光景が私の目前でまた繰り返されるのだ。
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