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 私は唖然として呟くしかない。なんだろうこの訪問は。そして今私の目の前にいる『新庄宗一』という、この青年は。  坊主頭に細身の長身。その顔は精悍だけれどまるで表情というものがない。鋭利とも言える目をして私を射抜くように見つめている。  言葉は丁寧だけれど本心では何もへりくだっていないように思える。侮蔑や怒りがある訳ではない。眉ひとつ動かない整った顔立ちは、さながらデッサンに使う彫像のようだ。  ただ空虚なその表情に、私は、真っ黒い渦のような引力を感じてしまって……。  沈黙してしまった私が怯えたように見えたのか、源田が苦笑いを浮かべて慌てて取り繕う。 「ああ、申し訳ない。この宗一というのは真面目で腕の立つ男なんですが、なにせ無愛想でいかんのです。決して悪い男じゃありませんので、奥さん、どうかご信頼下さい。他にも頭の赤いのや金色なのやらがおりますが、どれもこれも気のいい奴らばかりです。懇切丁寧な仕事を仕込んでおりますので、どうかご安心になって万事をお任せ下さい」  「……は、はい……。こちらこそ、よろしくお願い致しします……」 「お願いします!」  どうにか言葉を押し出した私に、源田工務店の若手一同は一斉に頭を下げる。びしっ、と音がしそうなぐらいに揃った腰を曲げてのお辞儀。私は今度こそ「ひっ」と小さな悲鳴を挙げてしまう。この人達、本当に大工さんなのだろうか。  夫がよく見ているDVDにこんなシーンがある。いわゆるVシネマというやつだ。  親分さんが黒塗りの車に乗り込む背後にこんな光景がある。『若い衆』と言われる青年達が高級車を送り出す光景。それがたった今、まさに私をめがけて行われているのだ。 「……明日は7時半に参上致します。くれぐれも飲み物や甘いものなどのお気遣いをなさらぬようお願い致します。では、失礼します」  ひとり先に頭を上げた新庄宗一が、やはりよく通る、けれど色のない声で言う。それを合図に青年達がまた一斉に顔を上げ、源田が満足そうに私に会釈をする。 「そんな訳で奥さん、よろしくお願い致します。クレームがありましたら新庄まで。必ずご満足頂ける仕事をさせて頂きますので、大船に乗ったつもりでお任せ下さいませね」
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