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 気分を変えようとおどけた口調でそう言って、私は引き戸を開ける。弘樹は黙ったまま靴を脱ぐ。幼稚園バッグを片手に茶の間まで上がってから、振り返って私の息子はぽつりとこんな事を言ったのだ。 「おにいちゃん、おこってないよ。でも、泣いてた」 「……え?」 「おにいちゃん、ママよりいっぱい泣いてた。くしゃくしゃのかおになって、ママよりいっぱい、泣いてたよ」    私は門扉の向こう、陽炎立つ丁字路の先にもう一度目をやる。  そこに新庄宗一の紺色の作業服を見つけることは、もう出来なかった。
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