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 その日いきなり私が育った家は、大幅に姿を変えることになってしまった。  まず行われたのはキッチン、お風呂場などの水回りの解体。うちは間取りで言えば2DKにあたって、台所と一体になった茶の間、中の間、座敷の3つの部屋で全てが成り立っている。  そのうちのキッチンその他の水回りが取り壊されてしまった。そして中の間には資材や家財道具などが積み上げられている。そんな環境の中で私はと言えば、空っぽになった座敷で息を潜めて工事の成り行きを見守っている。母屋である平屋と、そして新しく増築される6畳間と。  この座敷のサッシの向こう。基礎工事が行われたコンクリートの上に、今朝肩を震わせ泣いたあの男がいる。  あの後色とりどりの作業服を着た青年達が集まってきて、あの男は正気を取り戻した。涙を零していた気配など微塵も感じさせない冷静な表情で、私に頭を下げると青年達の輪の中で作業の段取りを指示し始めた。そして、作業が始まった。  基礎のコンクリートの上に角材が組み上げられていく。あっという間に新たな6畳間の簡単な骨組みが出来上がる。もう少し頑強に骨格を作り上げてから、この座敷との間のサッシを取り払うのだという。  結局事前に我が家に挨拶に訪れたのは『源田工務店』1社だった。他にも多数の業者が作業に入っている。けれどどの業者も私を一瞥すると若干迷惑そうな顔になる。それもそうだ。施主がじっとりと一挙手一投足に目を光らせている現場など、職人にすればやり辛いことこの上ないに違いない。  あの源田康夫という社長は、やはり任侠道に近いものを背負っているのだろう。考えてみれば私が契約したのは大手リフォーム業者。そこに使われる下請けが私を詣でる必要は、本来ならないはずなのだ。けれどあの威圧感を伴う丁寧な挨拶は、源田の手の内をこちらに晒そうという、男気の発露に違いない。
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