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昼下がり、鉛色を歌う
面倒くさい期末試験も、初日は一科目だけで終わり、曇天の下を独り歩いて家に帰る。
その道すがら、歌が聞こえた。
鉛色の空が似合うメランコリックなメロディーに、彼はキョロキョロと辺りを見回す。
錆びたカーブミラー、消えかかった横断歩道の白線。何の変哲も無い、いやどちらかと言えば不愉快な光景であろう。
住宅街の狭い道路に、人影も車もいない。
――欠片となった私は、あなたに刺さる。
「どこから聞こえてるんだ……」
家まで残り三分ほど。
道中、音量が変わることなく、歌は響き続ける。
家の玄関に着くと、ドアに鍵を差し込んで中へ。
親が働きに出ている時間、暗い廊下で彼を迎えるのは、ポコポコとリズムを刻む水槽の空気ポンプだけだ。
静かに二階へ上がり、カバンを床に投げ出して、ベッドの端に腰掛ける。
この頃には、ようやく歌が終り、頭の中はいつもの空っぽに戻った。
したいことなんて、特に無い。
気になるのは、ほどほどに学校をやり過ごすこと。
適当に教科書の中身を詰め込み、適当な点が取れればそれでいい。
白シャツはそのままに、下だけデニムに履き替え、数学の問題集とノートが積まれた机へと移動する。
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