昼下がり、鉛色を歌う

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 遅い夕食までに、試験範囲の問題を一通り見直せるだろう。  シャーペンを握り、白紙のノートを開く。  ――刺さった(きず)から、涙が(こぼ)れる。赤い涙で縞を描く。  知らない歌だった。  声には覚えがあるけれど、誰のものかは思い出せない。浮かぶ顔など無く、ただ妙に親しい馴染みを感じるだけだ。  抽象的で、カッコつけた歌詞は、つまらないと感じた。  陳腐だと馬鹿にしたいその歌のサビを、しかし彼は、いつの間にか口の中で繰り返す。 「割れたのは私、割ったのはあなた……」  もう一度聞けば、何かを思い出せるかもしれない。  何か、大事なことを。 『もう一回、聞く?』 「え!?」  彼が問い返す隙も与えず、歌は繰り返された。  誰が歌っているのか、どうやって聞かせているのか、途中でした質問に答えは無く、諦めた彼も歌の終りまで大人しく待つことにする。  今回は注意深く、歌詞と声に意識を集中して聞くことで、一つの答えに辿り着けた。  歌声が消えると同時に、彼は告げる。 「君はセラだ。音声ガイダンスのセラ」  誰もいない中空に語りかけるのは、少し気恥ずかしさを感じたものの、返答はすぐにされた。 『そう。知ってるのね』     
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