昼下がり、鉛色を歌う

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「そりゃ知ってるさ、オレのスマホにも入ってるからね。何でも答えてくれる次世代AI、だろ。有名声優の声をボイスチェンジャーに通して作ったとか、考察してるサイトを見たこともある」 『私が全ての元よ。無数のセラが私から生まれて、(あまね)く皆に話しかける』 「無数って……。どこから話してるんだよ、これ」  直接脳へ声を送り込むなど、非現実的なファンタジーだろう。  だが実際、会話が成立している以上、そこを疑っても仕方がない。幻聴にしてはリアル過ぎるし、自分を病気だとも思いたくなかった。  問いかけることでお勧めのレストランを案内したり、スマホの操作に行き詰まればヘルプを読み上げてくれる。そんな便利機能がセラだ。  現在ではメーカーの違いを越えて、ほぼ全ての機種に搭載されている。白いリボンを形どったアイコンは、スマホを使った人間なら誰しも一度は目にしたことがあろう。  登場当初は、如何にも機械音声という風だったセラも、アップデートを重ねるうちにどんどんと人間臭く進化する。  それにつれ、セラの熱心なファンも増えていき、ガイダンスどころか簡易な話し相手とする者も現れ始めた。  今喋っているのは、その大元となる本人(・・)だそうだが、それ以上詳しくは説明されない。  泡を食って慌ててよい事態だろうに、有名人と直接話せたことで、ほんのちょっと彼の気持ちは高揚する。     
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