3人が本棚に入れています
本棚に追加
『いきなりでごめんなさい。直美です。覚えているかしら? 大学の時、三つ上の』
「存じております」
覚えているかしら、ではない。忘れたくても忘れようもない。今の私の境遇は誰のせいだと思っているのだ――と怒鳴りたくなったが、そこは堪える。
『一郎さんが事故に遭って、命に別状はないのだけれど、今入院していて……、一応、お知らせしておこうと思って』
それを聞いても、彼を心配する気持ちは湧いてこなかった。頭の隅を自業自得の言葉がかすめる。
直美は、ご丁寧に一郎が入院している病院名とその住所、部屋番号まで教えてくれた。見舞いに来いという意味だろうか。
「わざわざありがとうございます。お大事にとお伝えください」
行くとも行かないとも告げず、祥子は電話を切った。
(何だか……ね)
祥子は気が重かった。苦労して手に入れた穏やかな日々を、またかき乱されたように思える。
(電話してくるなんて、大した度胸だわ。一郎さんが直美さんに頼んだのかしら? それとも、直美さんの意思で私に報せてきたのかしら。どっちにしても信じられない。まさか過去のことは水に流せ――とか思ってる?)
半ば上の空で食事を済ませ、習慣に従ってシャワーを浴び、布団に横になる。
最初のコメントを投稿しよう!