三つ辻の道祖神

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『いきなりでごめんなさい。直美です。覚えているかしら? 大学の時、三つ上の』 「存じております」  覚えているかしら、ではない。忘れたくても忘れようもない。今の私の境遇は誰のせいだと思っているのだ――と怒鳴りたくなったが、そこは堪える。 『一郎さんが事故に()って、命に別状はないのだけれど、今入院していて……、一応、お知らせしておこうと思って』  それを聞いても、彼を心配する気持ちは湧いてこなかった。頭の隅を自業自得の言葉がかすめる。  直美は、ご丁寧に一郎が入院している病院名とその住所、部屋番号まで教えてくれた。見舞いに来いという意味だろうか。 「わざわざありがとうございます。お大事にとお伝えください」  行くとも行かないとも告げず、祥子は電話を切った。 (何だか……ね)  祥子は気が重かった。苦労して手に入れた穏やかな日々を、またかき乱されたように思える。 (電話してくるなんて、大した度胸だわ。一郎さんが直美さんに頼んだのかしら? それとも、直美さんの意思で私に(しら)せてきたのかしら。どっちにしても信じられない。まさか過去のことは水に流せ――とか思ってる?)  半ば上の空で食事を済ませ、習慣に従ってシャワーを浴び、布団に横になる。     
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