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「私があなたたちをどんなに恨んだか、知らないのでしょうね」
電話の続きをしているような気分になり、枕元に置いたスマホに話しかけた。
「ねえ、直美さん、あなた私のこと、妻の座にしがみついて一郎さんとの幸せを阻んだ憎い女だと思っているのでしょう? でもね……」
言葉にしているうちに、次第に腹が立ってきた。
「あなたは、私にとって、夫を奪った酷い女。私がこの十数年、どんな思いをして暮らしてきたか、あなた、知らないでしょう?」
一郎の両親を看取った。独りで子ども二人を育て上げた。
炎天下の中で果樹を収穫し、寒風に震えながら枝の剪定をした。化粧もせず流行の服も着ないで、なりふり構わず働いた。
「離婚を承知しなかったのは、唯一、私にできるあなたたちへの仕返し」
涙が出てきた。多少の自己嫌悪はあったが、怒りと口惜しさの方が勝っていた。
「……思い知らせてやりたい」
泣きながら、祥子は眠りに落ちていった。
黒一色に塗りつぶされた闇を背景に、薄ぼんやりと三つに別れて伸びる道が見えた。道の交差する場所には、あの双体道祖神が立っている。
祥子は三本の道のうちの一つを、道祖神に向かって歩んでいた。
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