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やがて長男仁志が誕生し、家庭は円満だった。
第二子の香織が産まれて間もなくの頃のことである。一郎が風呂に入っている時、リビングに置かれたままになっていた彼の携帯が鳴った。メールの受信音だったが、義父が体調を崩していたこともあり、母屋からの電話だと勘違いした祥子は、咄嗟に携帯を取った。
スマホが普及する以前のことで、折りたたみ式のその携帯を開くと、画面に送信者名が表示された。
「直美さんって……」
その名前に祥子は憶えがあった。
大学時代、一郎には直美という結婚まで考えた同期生の恋人がいた。祥子が入学した時には、二人はすでに別れた後だったので、詳しい事情はわからない。ただ、彼女がとても美しく華やかな女性だったことは印象に残っている。
その元恋人からのメールである。
普段、祥子は夫の携帯を勝手に使ったり、ましてやメールを見たりなどはしなかったが、その時は気になって仕方がなかった。
悪いことと知りつつ、祥子はそのメールを開いた。
そこには、絵文字をふんだんに使い、仕事帰りの電車の中であること、夕食の献立は何にしようか考えていることなどが、まるで女子高生のような可愛らしい文面で記されていた。
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