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本当に元恋人とメールをしていないか確かめずにはいられなくなった祥子は、ある夜、眠っている一郎の枕の下から携帯を取り出した。しかし、メールボックスは空で、祥子が、会社の帰りに香織のミルクを買ってきてほしいと送ったメールさえも削除されていた。
祥子は次第に食事が摂れなくなった。浮気疑惑に育児疲れが加わって、鬱状態に陥ったという自覚はあった。
やせ細っていく祥子を義父母は心配してくれたが、確たる証拠もないのに、一郎の浮気を疑っているなどと、とても打ち明けられない。
学生時代の友人に電話で相談すると、「興信所に一郎さんの素行調査を依頼したら? それとあんたは病院へ行きなよ。間違いなく心の病だよ」と言われた。
けれど専業主婦の祥子には自由に使える金がなく、とても興信所には頼めない。また、精神科の受診には抵抗があった。
当然、一郎との間は、冷えていく一方だった。
「離婚してくれ」
唐突に一郎からそう言いわたされたのは、翌年の春だった。
「俺が家を出るから、お前はここに残ってもいいし、実家に帰ってもいい。お前の好きにして構わない」
「そんな急に……」
祥子は愕然とした。浮気はすでに疑いから確信へと変わっていた。けれど、離婚話が出るとまでは思っていなかったのだ。
「出て行くって……。子どもがいるのに……。畑は? お義父さんとお義母さんは?」
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