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夏の夕暮れ時、香織をベビーカーに乗せ、仁志の手を引いて散歩していた時のことである。
「ママ、神様になむなむしよう」
仁志が、三叉路の道祖神を指さした。
二人の人物像が彫られたその道祖神が、古くから村の守り神としてそこに鎮座していることは祥子も知っていた。
「南無南無って、仏様へのご挨拶よ」
「バアバがいつもなむなむしてるよ。やくさいから守ってくれるんだって。バアバは、パパのやくさいを取りのぞいてくださいってお祈りしてる。ぼくは、あした保育所の給食にピーマンが出ませんようにってお願いする」
道祖神の前にしゃがんで手を合わせる仁志を見て、祥子はベビーカーの車輪をロックし、息子に倣う。
「仁志と香織が健康で過ごせますように」
合掌して瞑目し、続いて自分に降りかかった厄災を思い浮かべる。
(発端は携帯メールだっけ……)
直美とのメールのやりとりに気づくまでは幸せだった。
(あの時はまだ、単にメールだけのつき合いだったのかもしれない)
疑心暗鬼にかきたてられて、忙しい一郎を思いやれなかった。それは認める。
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