三つ辻の道祖神

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(でも……私だって、知らない土地に来て、舅や姑に気を遣いながら、慣れない農作業をして、家事も育児も任されて……それでも私なりに精一杯やってきた。なのに私が至らないから別の女って……)  そう思った途端に、目の奥が熱くなって、涙がこみ上げてきた。 (妻を支えるのが夫の勤めでしょうに!)  悲しみが怒りに変わっていく。  小さい時から世界各地の神話や儀礼・祭祀に興味があった祥子は、文化人類学の研究者になりたかった。ゼミの教授には大学院を勧められたし、郷里の博物館の学芸員になる道もあった。  幼い頃からの夢を捨てて、農家に嫁いだ。一郎のためだけに。  けれど、彼にとって自分は一番の女ではなかった。 (直美さんを忘れてなかったのに、なぜ私と結婚したの!!) 「ママ?」  仁志の声に祥子は我に返った。涙で頬がびしょびしょに濡れていることに気づく。一郎が出て行ってから、初めての涙だった。  「おなか痛いの? なでなでしたげようか? 神様になむなむして痛いの治してもらう?」  尋常ではない様子の母親の顔を、仁志は心配そうにのぞき込んでいた。 「大丈夫よ、もう治ったから。ありがとね」  手の平で頬をぬぐい、祥子は無理に笑顔を作る。 (子どもたちに心配をかけたらだめ。せめて私だけでもちゃんとした親でなくちゃ)  立ち上がり、祥子は片手で仁志の手を引き、もう片方の手でベビーカーを押しながら歩き始めた。     
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