三つ辻の道祖神

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三つ辻の道祖神

 Y県N郡T村、果樹畑の中の三つ辻に、二柱の神が彫られた石の道祖神(どうそじん)が立っている。いわゆる双体道祖神である。  いつからそこにあるのか誰も知らない。像の目鼻は削れ、輪郭すら曖昧であることが、風雪にさらされた年月の長さを示している。  昔からT村の人々は、厄災の侵入を防いでくれる村の守り神として、その道祖神を信仰していたが、双体のせいか、近年になって願う相手と自分の魂を一晩だけ交換してくれるという噂が立った。  真偽の(ほど)は定かではないが、こんな逸話が語られている。 夫の愛人と入れ替わった妻の話  祥子(しょうこ)がT村の果樹農家に嫁いだのは、平成の始めだった。  夫の一郎(いちろう)とは大学の先輩後輩の間柄で、一郎が卒業後に実家を継ぐためT村に戻った後も恋愛関係は続き、祥子の大学卒業を待って結婚した。  一郎の両親は敷地内に別棟を建てて、そこに息子と嫁を住まわせた。  畑仕事は、主に一郎の両親が行い、一郎は平日は隣町の会社へ勤めに行き、休日は畑で働いた。祥子は専業主婦で、収穫や剪定などの繁忙期には夫や義父母を手伝った。     
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