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 そいつが現れたのは、俺が親父の会社である本社の営業部に配属されて一ヶ月ほど経ったある日のことだった。屋敷へ帰宅するとふたりが待ち構えていたのだ。ふたりとは執事の丸岡と見たことのない若い男。 「はじめまして。新田匡人(にったまさひと)です。本日より、こちらのお屋敷で働かせていただくことになりました。一日でも早くお役に立てるよう努力して参りますので、どうぞよろしくお願いいたします」  新しいスタッフか……そう言えば今朝、丸岡がなんか言ってたな。  ネクタイを緩めながら、そいつを見下ろす。  華奢だな。スーツがブカブカじゃねーか。丸岡の話をあまり聞いてなかったけど、高校生でも連れてきたのか? 腕時計なんてGショック。おいおいおい。マジかよ。まぁ、黒縁眼鏡で顔を覆い、いかにも清潔でおとなしい感じだ。  眼鏡フレームに囲まれた目が真っ直ぐに俺を見上げる。黒目がちな瞳はキラキラと光を反射し、紅潮した頬と相まって緊張とほのかな期待が伝わってくる。初々しいという言葉がピッタリだ。新人ってこんな感じだよな。普通。  同じ新人でも世間を舐めくさった俺とは大違いだ。 「……ああ、よろしく。僕の名前は……もう知ってるか」  新人へニコリと微笑み、最後に冗談ぽく言うと新田はホッとしたような表情になった。 「はい。花桜今春(かおういまはる)様」  俺の名前を呼び、口元で軽く微笑む。おとなしいがコミュニケーション能力は高そうだ。馴れ馴れしいとまでは感じさせない程度の親しげな微笑み。
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