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「はは、これは一本取られたな」
ユーリの指摘に、ザインは笑った。その姿はひどく楽しそうであった。
「ではかつての私が魔王であったとしよう。では今の私はどうだ? 君の国のこんな狭苦しい部屋で君と同居してやっている、あまつさえ君の飯の支度までしてやっている心優しいこの私は、はてさて……魔王と呼ばれるべき存在なのだろうか?」
「その点は感謝している。俺は騎士団の仕事で忙しいし、この子の世話もお前やお隣さんに任せっぱなしだ」
ユーリは忸怩たる思いを顔ににじませた。
「だが、お前はかつての力を取り戻していないだけだ。封印されていたお前が再び力を取り戻せば、お前はまたかつてのようにこの世界を支配し、魔王として君臨するだろう」
「それは君の考えではなく王宮の懸念だろう、ユーリ」
ザインはユーリの肩を撫でた。ユーリがザインの手をうっとおしそうににらみつける。赤子が腕の中にいる為、あまり乱暴に動くことができなかった。
ザインは口元を引き上げる。
「もちろん可能性はある。魔王であったものが、過去と同様の条件が揃った時に再び魔王として君臨してしまうのではないか。その可能性を否定することは誰にもできない。当然私自身にもだ。なればこそ……」
ザインは好機とばかりにユーリのうなじに指を這わせた。
「私が魔王であることを一体誰が証明できるのだろうな?」
ユーリはさすがに堪らないといった様子で、ザインの腕を払った。
すると、ユーリの腕の中で穏やかにしていた赤子が烈火のごとく泣き叫んだ
「あぎゃぁっ! あぎゃぁっ!!」
「おおっと、しまった、これは戯れが過ぎたな」
「お前のせいだぞ、ザイン」
「仕方がないだろう、君が隙だらけな姿を見せるのがいけない」
ザインは懲りた様子もなく頬を綻ばせた。
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