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ユーリは眉間にしわを寄せて呟く。
「……決める人間が一人だけいる」
「ん?」
「この子だ。この子が成長した時、その時に答えは出るだろう」
「ああ……」
ユーリの言葉に、ザインは納得したような吐息を漏らした。
「そうだったね。この子が決めるのなら間違いない」
「魔を統べるものが魔王ならば、魔を払うものが何と呼ばれるのか」
「その答えはここにある」
ザインとユーリが腕の中の赤子を眺めた。
赤子の名はタウ。齢一歳にも満たない幼き女の子であった。
完全言語、はじまりの言語、古代ヘブライ語とも呼ぶ。
その二十二番目の言葉、終わりの言葉こそがタウであった。
彼女は魔を払う特別な力を持っている。
食らうでもなく、操るでもなく、払う力だ。
この力を持つものを、人々は『勇者』と呼ぶ。
ザインは赤子の頬に指で触れて、穏やかに笑った。
「この娘が勇者になったその時に私が魔王であるかどうか判断してもらおう。うむ、それがいい」
「きゃっ、きゃっ!」
「はは、まったく最高に可愛いなぁこの子は。もう最高に愛おしいぞ」
「……馬鹿親丸出しだな」
ユーリが嘆息する。
「魔王に育てられる勇者の娘か。果たしてそれは何と呼ばれるべき存在なのだろうか?」
王国騎士団長であるユーリは、複雑に絡んだ魔王と勇者の関係にこれからも付き合わなければならないのかと考えると胃がキリキリと痛むのであった。
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