3話 血統

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 そんなには広くはないが、豪華な装飾のある応接室で待っていると、初老の老人と秘書らしい女性が入ってきた。  高級そうなスーツに着飾った品の良い老人から差し出された名刺には、x財団法人 理事長との肩書きがあった。  理事長の名前は、赤海と言った。身体は小柄で細いが、その目つき、雰囲気からして、どこか自尊心が強そうで、気難しい老人との印象をうける。 「突然、このようなところにお呼び出しして、誠に申し訳ありません。驚きになったことと思います」  理事長は見た目とは異なり、低姿勢に挨拶をした。私は警戒心から、理事長の次の言葉を待ったが、しばらく沈黙の時間が流れた。理事長、秘書とともに、私を品定めをしているかのように痛い視線を送ってくる。丁寧な口調とは裏腹に、目は笑っていない。  何も話してこない。沈黙に耐えきれず、私のほうから堰を切った。 「単刀直入にお聞きしますが、私を呼び出されたのは、どのようなご用件でしょうか? 先般の遺伝子検査で、なにか、私の体に異常が見つかったのでしょうか? 」 「いえいえ、貴方はいたって健康です。それも、今回の遺伝子検査の解析によれば、特有の長寿遺伝子と呼ばれる遺伝子もお持ちです。なんの心配もございません。ご安心下さい!!」 「そうですか。それは良かった。それならば、なぜ? 」 「そう、結論を焦らないでください。まずは、私どものご紹介をさせて頂けませんか? 」  理事長は、ゆっくりとした口調で、検査会社w社の成り立ちを話しはじめた。理事長の財団法人が全額出資してスタートした会社であること、遺伝子検査の精度には自信があること、我々の活動には「世界を救う」という社会的使命を持っていることを熱く語った。  抑揚のない話し方も相まって、全く興味もわかなければ、頭にも入ってこなかった。にも、かかわらず、本心がわからない中では、話を合わせるしかない。 「そうですか。私も仕事で新規事業開発に携わるものとして、御社の手掛けられている事業には興味はあります。やっていらっしゃることは、素晴らしい事業だと思います。ただ、私が呼ばれた意味が全くわかりません。真意を教えてください……」 「そうですね。わかりました。あなたは、弊社の遺伝子解析結果をご覧になって、気づかれたこと、気になったことはありませんでしたか? 」 「そうですね。とくに体質に問題あるところはなかったかと思い、安心した記憶はありますが。待ってください。やはり、本当は問題があったのではないですか? はっきり言ってください!!」  私は、赤海理事長との噛み合わないやりとりに、苛立ちを隠せずに結論を迫った。 「わかりました。落ち着いてください。私たちが、遺伝子検査のメイン分野としている祖先のルーツの結果はご覧になりましたか? 」 「たしか、中国の南部のほうからやってきたとかと記憶してますが……」  祖先の結果については、あまり興味もなく正直いうと記憶にもほとんどなかったが、ここ来る前に見返した内容を、頭の片隅にあったものをひねり出した。
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