3話 血統

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「それは、母方のルーツのほうです。よく、思い出してください。父方のところの結果は、判定不能となっていたはずです。なぜ、わからなかったのか、不思議に感じられなかったでしょうか。ここにお越し頂いた理由はそこにあります。私は、あなたにそれを説明する義務があるのです」  赤海理事長はそういうと右手を挙げた。部屋の電気が消されて、天井から大きなスクリーンが音を立てて降りてきた。秘書がタブレットを操作すると、スクリーンにはオープニング画面が映し出された。  黒くて重い扉が開き、目映い光が差し込んだ。どこかで見たことがある。ホームページの遺伝子検査結果に入る画面と同じだ。  赤海理事長の説明を、端的に要約するとこうだ。 ① 20万年前にアフリカで、我々の祖先が誕生し、広大な世界へ旅に出た。 ② 人類は世界中を旅をしながら、環境に適合することによって進化した。 ③ その進化の過程は遺伝子で追うことができる。分岐のタイミングで、共通祖先を特定でき、よく似た集団をハプログループと呼ぶ。 ④ Y染色体は男系は万世一系である。たとえば、「元」帝国のジンギス・ハンに由来するY染色体DNAを持つ人々は、男性総人口の8%、およそ1600万人という推定もある。 ⑤ Y染色体の系統樹があり、ハプログループとしてアルファベットで表記される。 ⑥ 人類史の争いで絶滅した系統も複数ある。 「ここまでのお話のなかで、遺伝子検査におけるY染色体が示す可能性、重要性をお分かりになりましたでしょうか。しかし、貴方は遺伝学の解析の結果、どのハプログループにも属していません。なぜでしょうか? 」 「え、なぜと言われましても皆目見当も。いや、なぜでしょうか……」 「……それは、あなたが持つ遺伝子は、世の中に認知されないほどの少数種族なのです。しかも、少数種族のなかでも、遺伝子の分岐点がかなり古い旧タイプであると分かっています。世間一般では、このタイプは認知もされていないものですから、我々は勝手に、その遺伝子をUタイプと呼んでいます。実は私もあなたと同じUタイプに属しています」 「つまり、あなたと私は遠い親戚ということでしょうか? 」
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