3話 血統

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 私の答えに今まで見せなかった笑みを浮かべた。 「さすがに理解がお早い。そういうことになります。遺伝子は絶対に嘘をつきませんから……」  赤海は、少し咳き込んだ。そして、私から目線をずらし、スクリーンに映る小さな祠のようなものをじっと見た。 「我々のUタイプは、この国に一番古くから住み着いたものと考えられています。我々の民族は、誠実で調和を愛し、それはそれは慎ましく暮らしてたようです。争いも戦争もない理想国家だった。それが、強欲で残虐な後から来たもの達との闘いに敗れて、平和な生活と家族を奪われたのです。我々の祖先は、各地へ離散し、慎ましく生きることもゆるされず、迫害を受け続けました。後から来たものは、我々の一族は絶滅したと完全征服宣言をしました。その証として、我々の伝統と歴史を壊し、自分たちの功績を語りつぐために、各地に痕跡や史跡を残しています」  赤海理事長は、細い腕で机を叩きつけた。凄まじい怒りが眉の辺りに這い、腹立たしさが高じて涙が出るほど胸が詰まらせている。 「しかし、我々の祖先は、生きることを決して放棄をしないで繋いできた。あなたの体にもしっかりと遺伝子として刻まれているのです。もう、お分かりでしょうか?x財団法人は、格式の高いUハプログループの集団によって、民族の復興と後から来たものへの復讐を目指して組織された法人です。x社を設立し、遺伝子検査を始めたのも、離散した我々の仲間を集めるためだったのです」  スクリーンの光加減により、青白い理事長の険しい顔が見え隠れする。まわりの静寂と絡み合って、恐怖を感じる。はやく、この場から逃げていきたいと思った。 「それが、私とどういう関係が……」 「花城さん。つまり、貴方を探し出すために、x財団は20億をつぎ込んだんです。ようやく、お会いできましたね。ようこそ、こちらの世界へ」  平凡で退屈な毎日が終わりを告げ、未知なる世界へ足を突っ込んでしまった感覚がした。
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