2話 審判

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「え、そんなにするの。そんなの、無理に決まってるでしょ!! これから、光輝を育てるのに、いくらかかるのか分かってる? 住宅ローンだってまだ残ってるし。どれだけ、私も欲しいものがあるのに我慢してるの分かってる? 英語なんて、あなたが、自分で教えればいいじゃない!!」 先程の愚痴話をグレードアップさせ、とめどない口撃をしてきた。今日、3回目の特技を出すときがきた。しまった。特技は、一日、2回しかだせない。  妻は結婚する前は、保険の外交員をやっていた。かなりの営業実績を残していたらしく、何度も社長賞をとったと聞いているので、とにかく口がたつ。こうなったら、全く手がつかられない。仕事命の女と思っていたが、私の転勤に伴い、あっさりと仕事をやめた。ノルマがとにかく嫌だったらしい。それ以降は労働を拒否している。  そもそも、俺に英語なんて教えられるわけないだろ……。  社会に溢れているカッコつけ野郎が考えたカタカナ用語もついていけないのに……。  先程、私はそれなりに社会的な地位があると豪語してしまったが、どうやら大きな間違いでした。電子広告のなかで楽しそうにダンスしていたキャラクターくん、レッド、とてもじゃないが、君たちの期待に応えれそうもない。すまん、諦めてくれ!!  会話の途中で、どさくさに紛れて遺伝子検査もやりたいと言おうと思ったのに、それどころかなにも言えなくなった。  仮に、遺伝子検査は今後の健康管理のためにやるんだ!と言ってみる。そんなものをやるくらいなら、カレー山盛りで食べるのやめたらと返って来るだろう。それから、私の腹が出てきたことをジワジワと追撃してくるだろう。いまは、好物であるカレーを堪能しようと決めた。はい終戦!!  子供をお風呂にいれ、光輝が眠りに落ちたのを見届けて、ようやく本日の業務は終了し、一息をつくことができた。子供を育てるのは、40歳を超えるとなかなかの重労働だ。先日も、光輝が真夜中に布団の上で嘔吐したときは、あれは大変だった。子育ては綺麗事だけではないのだ。  妻は、10時から始まった不倫を題材にしたドラマに釘付けだ。最近、そのドラマにはまっているらしく、一人で自分の世界に入りたいと私はお邪魔虫だ。  40歳を超えたおばさんでも、女子高生のようにキュンキュンしたいらしい。誰も相手をするお人好しもいないのに……    疲れた体を休めるために、寝室で布団に入ってからも、遺伝子検査が諦めきれず、スマホをいじってみる。しばらくして、不倫ドラマの世界にまだ陶酔している妻は、そのまま無言で部屋の電気を消し、布団の世界に飛び込んだ。  ネット検索して分かったことは、国内、海外で遺伝子検査会社が複数あった。しかも、値段も検査方法も敷居が高いのかと思っていたが、民間レベルにおいてもリーズナブルで、簡易で我々の生活に浸透してきているのだと感じた。検査内容、値段によってランキング形式をベースとしたおまとめサイトもあった。
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